テーラーの世界が垣間見られるおすすめ本―夢を叶える―



「産みの苦しみ」とはよく言ったもので、何かを作るというのは、エネルギーが必要で、苦しさも伴いますよね。

作ることが大好き、というだけでは、道は拓けない。

作って終わりではなく、誰かに見てもらわなければいけないので、努力の上に、さらにアピールも必要。


今日ご紹介する本は、パリでテーラーをされている日本人のお話。


海外で生きる、しかも、職人の世界で生きるとはどういうことか。

一流の人の、ものづくりへの姿勢とはどういうものか。

私が、行き詰まったり、モチベーションが下がった時に読み返す本です。


◯こんな人におすすめ

「テーラーの世界に興味がある」

「クラシックな服が好き」

「オーダービジネスに興味がある」

「海外(特にヨーロッパ)で身を立てることを考えている」

「誰もが無理だと言うことに挑戦しようとしている」

「努力はしているが、行き詰まりを感じている」

「職人になりたい」


◯あらすじ

鈴木健次郎氏(以下鈴木氏)は、2016年現在、フランスに店を構え、フランスと日本を往復しながら、フランスの技術とエスプリが詰まったスーツを作られている、現役のテーラーです。


日本を離れたのは27歳の時。

高校を卒業して、服飾の専門学校で紳士服の基礎を学んだのち、アパレル業界で既製服を作っていましたが、いくら努力をしても自分の思い描く形を再現できませんでした。

仕事以外でも、さらに技術を修得するためプロ向けの講座に通い、帰宅後深夜まで復習を繰り返すも、依然満足いくもの作りができず、苦しみのトンネルから抜け出せない日々が続きます。


同時に、日本のアパレル業界の形態に違和感を覚え、日本で既製品を作ることに限界を感じた鈴木氏は、周りにいる、海外で仕事をしている先輩からの助言もあり、パリのメゾンでモデリスト※1として働くことを志すようになります。

アパレル業界にいても貯金はできないことを実感していた鈴木氏は、早急に資金を貯める為、思いきって、ファッションとは全く関係ない、浴室リフォームの営業を始めました。

体を壊し、入院を余儀なくされるまで働き続けた1年。このわずかの期間でなんと350万円を貯めることができたのです。


フランス語もほとんどできない、資金にも限りがある、渡仏したところで仕事が見つかるあてもない。この状況下で、鈴木氏を前へ進ませたのは“夢への情熱”と“できるという自信”でした。


渡仏直前、フランス語の語学学校で知り合った女性と意気投合し、知り合ってわずか3週間で結婚を決めます。

ここからは、二人三脚で厳しい道を歩いていくことになります。

待ち構えていた最大の壁は、「人種差別」――

肌の色など、努力ではどうすることもできない。

やがて、鈴木氏はフランス一のメゾンで、職人のトップに上り詰めます。


果たして、鈴木氏は数々の困難をどう乗り越えたのか。



誰がなんと言おうとも、自分が目指しているなら、決して自分で限界を決めてはいけない。ダメでも、あきらめず、やり続ける。

シンプルで、誰もがわかりきっていることかもしれませんが、その大切さを、その効果を、改めて実感させられる物語です。

自分はまだまだだと思いしらされますが、同時に、「あきらめられない」と勇気も湧いてきます。


気になる方は、ぜひ、本を読んでみてください!


◯心に残るエピソード・言葉

「絶対に自分はやりとげられるという、自らを信じる気持ちは一度も無くしたことがない」

「不器用だから、人の3倍はやる」

「思い立ったらすぐ行動に出る」

「メンズファッション専門学校の入学の面接試験の際、鈴木氏は自分で作ったスーツを着ていった。後にも先にも、面接の時に自分でスーツを作ってきたのは鈴木氏だけだった。」

「その時点では先が見えなくても、懸命に努力を続け、何かしら行動を起こしてみる。できることからなんでも挑戦する。そうすることから、少しずつ人生の扉は開かれていった」

「A.I.C.P※2に入学した際も、入学した日に自分が作ったスーツを着て、校長に会いに行った。その時、さらに“ブートニエール”と呼ばれる特殊なボタンホールの試作品150個程持参した。※3校長は、鈴木氏の縫製技術が優れていること、テーラリングへの人並外れた情熱が人目でわかった。鈴木氏が就職先がなかなか見つからず苦しんでいたとき、彼の努力や才能を知っていた校長はヨーロッパ中のつてのあるメゾンに電話をかけ続け、そのおかげで8ヶ月ののち、一流のメゾンに就職口を見つけることができた。※4」

「フランスでは、カッター※5という職業は四十年から五十年の経験を積んで体得する職業だとされている。そのポジションに鈴木氏がついた時、周囲の職人の嫉妬による嫌がらせが始まった。テーブルを叩きながらの怒鳴り合いの喧嘩も何度もした。だが、他の職人も鈴木氏の正確なカット技術を見るにつけ、次第に鈴木氏を信頼するようになっていった」

「ヘッドカッターは聾唖者であり、意思の疎通が難しかったが、鈴木氏は仕事が終わって独学で手話の勉強をし、手話で対話しようとすると、徐々にヘッドカッターは鈴木氏を信頼するようになった。」

「オーダーメイドの服作りにおいて最も難しく、そして重要とされるのは顧客との信頼関係を築くこと。」


※1―デザイナーのイメージ通りに型紙を起こす仕事。よく似た職業にパタンナーがあるが、決められたボディの数値を型紙に起こすことに特化しているパタンナーに比べ、モデリストにはデザイナーからの漠然としたアイデアやイメージを汲み取り、具体的な型紙にすることが要求される。

※2―パリのモデリスト養成学校。パリで唯一の服飾専門技術者養成のための政府から認可された教育機関として長い歴史を持つ。卒業生は「シャネル」「ディオール」など一流ブランドのメゾンを支えるモデリストとして活躍している。

※3―ブートニエールは手縫いの技術が最も端的に表れる部分であり、オーダーメイドの縫製職人の技術の結晶ともいえる。この部分を見れば一目でその職人の縫製の技量がわかるとされている。

※4―職人の仕事は厳しく、労働時間は長い。その上、いつ失業するかもわからず、安定もない。現在では親が子供に望まない典型的な職業のひとつになっており、一般的な傾向としてフランスでも職人を志す若者は減少の一途を辿っている。

※5―フィッターが採寸したサイズから顧客独自の型紙を起こす職人




余談ですが、私はこの本が出版されてすぐに開催された、鈴木氏のトークショーに参加しました。その時彼は「シャツ作りは難しい」と言っていました。あの鈴木氏が難しいと感じるシャツ作りに挑戦している…。相当の努力が必要ですね。いつか、彼のスーツに合うシャツを作れるようになる日まで。


◯書籍情報

タイトル:夢を叶える パリのタイユール鈴木健次郎

出版年:2014年1月6日

著者:長谷川喜美

発行所:万来社

ISBN:978-4-901221-74-0



Chemiserie en chemin

Je voyage pour faire des chemises dans le monde entier. ”いいシャツ” 見つける旅に出よう

0コメント

  • 1000 / 1000